長期投資するとどうなるのか
本記事は、以下の記事からの続きです。
前回、簡単なシミュレーションを行って、以下の事柄を導いた。
①勝つ確率と負ける確率がともに50%で、かつ、勝ち幅と負け幅が同じであれば、施行を繰り返すたびに残高は減っていく。
要は五分の勝負を続けると、負ける運命にあるのである。
②そして、その施行がハイリスク・ハイリターンであればその減り方は顕著になる。
③よって、トレードがハイリスクであればあるほど、そのトレードに有意な優位性がなければならない。
④別の観点では、勝てば勝つほど保守的な態度でトレードするべきであり、勝って兜の緒をしめなければならない。勝ったあとの大負けはだめだ、ともいえる。
このことを人に話していたら、では長期投資すればよいわけ?
という反応があった。
長期投資が、リスクの高い商品を問題点を克服できるのではないか、ということだ。
つまり、前回の話では施行を繰り返すたびに残高が減っていったわけなので、施行する数を減らせば、残高の減り方は少なくなるのではないか、という主張だ。
この問題は、多少デリケートな問題でなのだが、ざっくり結論だけいえば、80%くらいは、そりゃ誤りだよ、つまり、長期投資してもダメだよ、ということになる。
さて、その理路を述べていきたい。
まず、端的にだめな理由。
それは、長期投資だって常に値動きがあり、その値動きのあった残高でもって毎日ベットしているわけで、実際の売買は1回であったとしても、本質的には無限回売買しているのと同じことになるのである。
要は、前回の主張は、一定のリスクのある商品(値動きのある商品)を長期保有した場合は、リスクが高い場合は目減りしていく可能性が高い、ということを言っているのである。
つまり、前回の主張は長期投資全体に対する問いかけであり、長期投資ってリスクが高いとダメなのではないか?ということを問いかけているのである。
本当か?
プラスの期待値であれば、複利で増えていくのではないか?
しかし、これはある意味でYesであるが、ある意味においてはNoである。
歯切れが悪いですね。確かにそのとおり。しかし、世の中とはそのようになぜだか知らないが、直感に反する事柄も多く複雑にできているのである。仕方がないですね。その複雑さを辛抱強く理解して、物事の一面だけ分かったような気になって軽率な行動を取らないようにしたい。
さて、Noというのはこういうことだ。
(「プラスの期待値であれば、複利で増えていく」に対するNoなので、プラスの期待値であっても、目減りしていくということをこれから説明するのである。)
一年後の期待値リターンR、標準偏差σの金融商品があったとすると、その1年後の残高の確率密度分布はどうなるだろうか?
まず、これを考えてみる。
普通に考えれば、「正規分布になる」、ではないだろうか。
でも、それがなんと、違うのである。
(←直感とはちがうでしょ!)
「正規分布になる」を視覚的に表すとこんな感じだ。
上図は、期待リターン5%、リスク30%で、リターンが正規分布になると仮定したリターンの分布である。青が1年後、オレンジが3年後、グレーが5年後、黄色が10年後である。
期待値の周りに左右対称に分布し、リスクというのは単にぶれ幅のこと言っている。
また、年数を経るごとにリターンは上がっていく。(右にぶれていく)
なお、山がなだらかになるのは、そりゃ、年数が経つとリターンだけでなく、ブレ幅もおおきくなる、ということを表している。
感覚的にはなんとなく正しそうだが、これが違うと言っているのだ。
では、正解は?
正規分布に従うのは、連続複利であって、1年後の残高の分布は、対数正規分布に従うのである。難しい言葉をつかって、煙に巻くつもりは毛頭ない。正確に言いたいだけなので許してほしい。ここで押さえればいいことは、「1年後の残高の分布は、対数正規分布に従う」だけである。
で、対数正規分布ってなによ、ということだが、対数席分布とは、下図のような左の方にピークがある分布なのである。
ここで重要なのは以下の点である。
・分布は左右非対称である。
・ピーク(最頻値)は、期待値より左にずれる。
(この例でいくと、ピーク(最頻値)は1を割っているのでマイナスのリターンになっている。)
ここで言っていることを投資家目線で噛み砕けば、以下のようになる。
期待リターン以上にリターンをあげることができる確率は、50%以上にはならない。(期待リターン以下を負け投資家とすれば、負ける投資家のほうが多いのである。)
そして、より投資家として注意すべきは、これを年数を増やした場合である。
このグラフをみていえることは、
①山がなだらかになっていく。
②ピーク(最頻値)は、より左側にずれている。
だ。
特に、注目すべきは②である。
これだと、投資期間を長くすればするほど、損失が拡大することにならないだろうか?
そのとおりなのだ。
ただし、これはリターンに対してリスクが高い場合の例である。
もう少しこの割合が小さい場合を見ておこう。
リターン20%、リスク30%の例。
ご覧のように、ピークは年数を経るごとに右側に行っている。
これで、安心したかな?
この意味するところは、投資をするさいは、リスクを少なくしようではないか、である。
私が参考にしたイーノ・ジュンイチさんのブログの言葉で言えば、
リスクはリターンをを蝕むのだから、リスクは最初化すべし、だ。
http://www.fund-no-umi.com/blog/2009/08/27-bc8a.html
これが今回の一旦の結論になる。
最後に、先程80%くらいは間違っているといった。ということは、少しはあっている部分があるのである。それは、年数を長くするとリスク・リターンの関係を改善するという部分だ。
試しに、投資期間を1、3、5、10年とするとそれぞれリスクあたりのリターンを計算してみると以下のようになる。(期待リターン20%、リスク30%の場合)
年数 | 1 | 3 | 5 | 10 |
リターン | 0.20000 | 0.72800 | 1.48832 | 5.19174 |
標準偏差 | 0.30000 | 0.51962 | 0.67082 | 0.94868 |
シャープ | 0.66667 | 1.40104 | 2.21866 | 5.47257 |
リスクはリターンを蝕む、なのでリスクを減らす長期投資は、すこしは優位性があるのでは、ということである。
議論が蛇行したので、もう一度振り返っておこう。
前回の記事で、リスクの高い商品に繰り返し投資すると期待値がプラスでも資金が少なくなってしまうことを導いたが、これを長期投資することで防げないかということだった。しかし、値動きの商品を持つことは、本質的にはこのリスク商品を日々売買していることに等しいので、先の問題の本質は長期投資でも同じであると議論した。
要は、この課題は、リスクのある商品に長期投資ってどうなのよ?という課題に昇華したわけである。
それに対して、まず以下を主張した。
①期待リターンR、標準偏差σの金融商品を運用するとそのリターンは、対数正規分布に従う。
②対数正規分布は、左右対称ではなく期待リターンが得られる確率は50%以下である。
③そして、リスク(標準偏差)が高くなるとそのピークは左側にずれていき、元本割れすることもありうる。(最頻値が元本割れする、ということである。)
その結果導かれるのは、
長期投資するのであれば、
・リスク・リターンの関係のよい商品を選択すべきだ。
なぜならリスクはリターンを蝕むから
となる。
また長期投資はリスクを低くするという美点があるので優位性がある
これが今回の結論だ。
これは1回目の結論と整合的ではないだろうか。
1回目の簡単なシミュレーションが、数学的に補強された感じだろうか。
さて、次回は一転、この一旦の結論をけちょんけちょんに論破していこうと思う。
一旦、結論として書いたけど、実はこれは正しいと全然思っていなのだ。