やまいもの投資

風見鶏トレーダーの株式投資日記

アリババ~不出世のビジョナリー~

今回はアリババについて語りたいと思う。

先日アリババの3Q決算があった。

60%増収、40%減収である。

この数字だけ見れば、よいとは言えないかもしれない。

また、貿易戦争の影響もあってか中国株全体が不調であり、アリババも6/15の直近高値211.70から、174.23へ、20%程度調整している。加えて、ここ半年くらいずっとヨコヨコであり、自身の外国株のPFのなかでも、足を引っ張る存在である。

しかし、まったくもって売る気はみじんも感じないのである。


なぜか。

端的言えば、自分の中では同銘柄は10年10倍銘柄と認識しているが、その認識を変えるだけの異変を感じていないからだ。というより逆に、期待にのほうが大きいといったところが素直な感情だ。


以下にもう少しゆっくりと説明したいと思う。

銘柄に惚れるなという言葉はあるが、この銘柄だけは、もしかすると惚れているとなるかもしれない。そう思わせる銘柄である。

私は、3つの投資法(割安成長株、バフェット株、ビジョナリー株)を組み合わせて使っており、それぞれ面白さはあるが、ビジョナリー株がもっとも楽しさのある投資法だ。ロマンを感じる、投資家冥利に尽きるといった感じがするのである。

ちなみに、10年10倍銘柄というと、すごいと思われるかもれないけど、年換算すると26%くらいなので大したことはない。しかも、10年という時間的コストを支払っているわけで、割の良い投資といえないかもしれない。
しかし、自分も男子なのだ。ロマンを感じるとやや理性のネジが緩むのだ。そこが甘いと言われれば甘いのであろう。しかし、そうゆうふうに人間ができているのだから仕方がない。

前置きが長くなったが、アリババについて自分なりの理解を書いてみたい。


●アリババとはなにか

アリババの本質とはなにか?
私が理解したところによれば、

 

「世界中からやりにくいビジネスをなくす」


である。これが目的である。

数々の電子商取引のビジネス(Alibaba.com、タオバオ、TMall)、アリペイ、アントフィナンシャルのゴマクレジッド、アリババクラウド等々は、その為の手段である。

「世界中からやりにくいビジネスをなくす」

如何にも、壮大なテーマである。こういった壮大なテーマだと、商売の種は無限である。尽きせぬ泉である。

もうひとつ理解しないといけないのは、ジャックマーという人物が、根っからのプラットフォーマー思考の持ち主であるということだ。

ジャックマーはAlibaba設立当初以下のように述べている。

「中小企業が本当に儲かるようにしたい。中小企業に後継者が大勢現れるようにしたい。わが国には十三、四億の人口がいる。 20 年後にはさまざまな理由で失業者も多くなっているだろう。電子商取引で、たくさんの人の就業の後押しをしたい。就業の機会があれば、社会が安定し、家庭が安定し、ビジネスが発展する。私は、企業は社会的な責任を負い、その責任を仕事の中で貫くべきだと考えている。自分たちの責任を果たし、この社会の発展を後押ししていきたい」

 

これが原点であろう。

既存の企業を破壊するのではなく、中小企業の商売をやりやすくするというところに力点がある。商売をやりやすくするとは、すなわち、プラットフォームを開発し、それを使ってもらうということにほかならない。

アリババ自身は、自分で商売(小売)することには興味がない。最近、百貨店の株を持ったようであるが、百貨店に興味があるのではなく、百貨店の商売がうまくいくモデルを作り上げて、そのプラットフォームを他社に展開することを狙ってのことだろう。

プラットフォームとは、単に自身が肥え太ることを意味しない。自身が肥え太ることもあるかもしれないが、それはあくまで結果で、全体がうまく回るように経済をつくることを意味するのだ。

 

●アリババの偉業

このような思想をもった企業であると理解すると、これまでアリババがたどってきた経緯が理解しやすい。

Alibaba.com

言わずとしれたB2B電子商取引サイトである。これにより、中国全土の中小企業に対して、グローバルな市場へのアクセスを提供する。

 

タオバオAlipay

タオバオはC2C電子商取引サイトだが、問題は、商品の決済。 
個人間取引なので、買い手としてはちゃんとした商品が不安。売り手としてもちゃんと支払いがあるか不安。
 これを解消するために、一旦、アリババが買い手から代金を預かってから、売りてが商品を発送し、買い手がちゃん商品を受け取ったことを確認してから、アリババ売り手に代金を支払うという仕組み。

また、アリペイには銀行の代替といった側面もある。

当初、クレジットカードが普及していないため決済手段は銀行振込だった。銀行振込だと手数料はかかるし、振込処理に時間はかかるし、面倒ですよね。
このためジャックマーは、銀行に何度も改善してくれるように働きかけたようだが、銀行はアリババを相手にせず、なにも変えようとしなかった。
そこで、「銀行が自ら変わろうとしないのであれば、私たちが銀行を変えてみせる」と宣言してアリペイを始めたという。

現在に至っては、アリペイは中国国民の主要な決済手段であることはもちろん、MMFである余額宝の25.7兆円ほどで、世界最大のMMFとなっている。こうなると、もう銀行だよね。アリババ自身が。
余額宝では、銀行預金より利率がよいため、リアルに「銀行いらなくねぇ」だろう。(日本も早くそうなってほしいものだ。)

ちなみにアリペイが広がった背景には、店側の端末などの初期コストが全くいらないのに加えて、決済手数料ゼロだ。但し、顧客側に対しては、銀行振り込みに際しては、手数料を0.1%取るようだ。もちろん原価はもっとかかっていると思われるので、その分はアリババの持ち出しだ。しかし、アリババは消費者金融機能であったり、公共機関への支払いなどには手数料をとっており、それでも十分な収益が上げられる仕組みになっている。(もちろんアプリの広告費もある。)。しかし、そもそも「銀行いらなくねぇ」なので、銀行への振込事態も急速に少なくなっているだろう。

 

芝麻信用(ゴマクレジット)

アリペイでの支払い状況などから信用度を算出するサービスである。これにはSNSの交友範囲や付帯サービスの利用状況なども加味されるようだ。これのすごいところは、これは消費者一般のマナーを改善してしまったことだ。芝麻信用のスコアがわるければ、就職や結婚にも影響するだろうし、当然、各種企業から提供されるサービスの範囲も限定されてしまう。そりゃ、マナーも良くなるよね。
サービスが限定される例としてはこんなのがある。アリババは自動車の自販機(無人)をローンチしているが、これが芝麻信用と関係が深い。まず、これは一定の芝麻信用のスコア以上でないと利用できない。また、ローンの金利にもスコアが影響してくるように設計されている。こうして、自動車の購入が芝麻信用と組み合わせることにより、本当に無人自動販売できてしまうのである。

どうだろうか、いろいろ見てきたが、本当に「世界中からやりにくいビジネスをなくす」をやっているのではないだろうか。
それによって、中国人に商売のもっとも重要なインフラである「信」を整備してしまったのだから、本当にすごいた思う。すくなくとも、アリババは中国を10年くらいは先に進めてしまったのではないかと思う。

 

●NewRetail

ここまでは、ここまでのアリババの話で、今後のアリババの展望がわからなければ、投資判断はできない。

まず絶対に理解しないといけないのは、NewRetailである。

前提知識として、中国のオンライン率は15%である。つまり、85%はオフラインなのである。このに攻め入るというか、ここに狙いを定めるのがNewRetailである。

NewRetailを知るには、抽象的な言葉をあやつるより、まずは具体例を見てみるのがよい。

盒馬鲜生(ファーマーションシェン)

盒馬鲜生(ファーマーションシェン)である。

簡単に言うと、レストラン付きのスーパーなのだが、ECも兼ねていて半径3キロから5キロ以内であれば30分で配達するというのである。

要は、レストランとスーパーとECと倉庫と物流機能をもつ、何者かである。

このようにさらっと説明すると、なにがすごいのかわからないかもしれない。

しかし、いち消費者として考えてみるとなるほど便利だとわかる。

店舗にいくと、いきなり水槽にロブスターとかがおり、それがその場で調理してもらえる。これは楽しそうだ。
店舗にいくのは、ひとつにはいくと楽しいからである。

そして、店内をみていくって欲しいものがあったとする。そうすると、まずは商品の横についているバーコードをスマホでスキャンする。

スキャンすると、Tmallのサイトと連携し、口コミで評判のよい商品であるかどうかその場でわかるのである。
そして、その商品をすぐ使いたかったら、かごに入れて買えばよいし、重かったり、すぐ使わないものは届けてもらうことにする。
届けてもらうものは、店内の商品を店員がピックアップして袋につめて天井のベルトコンベアーみたいなやつで、すぐに配送部隊へと回される。

もちろん面倒であれば、家にいながらにECで注文しても良い。一度店舗で実物をみているので、ものは知っているので安心だ。

なお、価格はEタグという技術を用いて、ネットと店舗では同じになるようにリアルタイムで調整されている。このため、ネットのほうが安いかもといった店舗での買い控えが抑制されることになる。
なかなか便利だ。

さらに、店舗側としてもビックデータをもちいた効率化が図られている。
店の近くに住む人のECでの購入履歴から、どのような商品が売れ筋かどうか把握して仕入れるのである。したがって、店舗としては大変効率が良い。
仕入れる品は生鮮食料品でるためきめ細かく在庫を補充する必要があるが、そこはもちろんアリババが長年培ってきた物量網が生きることとなる。

この結果、通常の1平方メートルあたり年間で1.5万元ほどの売り上げが、この盒馬鲜生(ファーマーションシェン)は6万元ほど売り上げるという。およそ4倍である。

どうだろうか。一つ一つは部分は割と想像しやすい、しかし、要素要素がうまく組み合わせることに、消費者にとっては、理想のショッピング体験をもたらしているのではないだろうか。
それと同時に、店舗側としてもおよそ4倍の売上を達成できるのだ。満足の行く数字といって良いと思う。

なお、すでに30店舗ほど展開済みで、フランチャイズ化も視野に入っている模様。
(2016年末に初めてNewRetailという言葉がでてから、すでにフランチャイズというのだから、その展開の速さは目を見張る物がある。

天猫维军超市(Tmallスマートコンビニ)

もう一つの事例を紹介しよう。

天猫维军超市(Tmallスマートコンビニ)である。

これは簡単にいうとアリババのビックデータをもちいた自動仕入れをもちいたスマートコンビニであるが、もうすこし、詳しく見ていこう。

まずは、店舗の近隣の住人が通勤者なのか通学者なのかどういったコミュニティに属しているかなどの属性分析を行う。
そして、それらの人がオンラインでどのような購入履歴を持つかを調べることで、近隣地域にどのようなニーズが或るか抑える。

次に、店舗の属性、オーナ、従業員の数、店舗の広さ等を調べる。
そして、地域のニーズと店舗の属性に応じて、商品の仕入れを行うのである。

中国にはこのような個人店が600万店ほどあるそうだが、それらの個人店に情報武装させて戦える状態まで引き上げようとする試みだ。

ちなみに、それによって売上が45%ほどあがったというのだから驚きだ。

なお、このような店舗に、アリババがネットで販売する保険商品や利用商品なども販売する予定だそうだ。こうなると、アリババのリアル取次店といった趣を帯びてくる。

どうだろうか、NewRetailの雰囲気がつかめたであろうか、他にも事例はあるが、ざっくりまとめると、以下のようになる。
・データを用いた仕入れのスマート化
・店舗のエンターテインメント化
・(消費者からみた)オンラインとオフラインの最適化
・執拗なまでの物流の高品質化
このようなことをプラットフォオームとして提供しようということだ、これにより85%へのアクセスしてくのだが、十分アクセス可能だと思うがどうだろうか。


●eWTP(世界電子貿易プラットフォーム)

もうひとつ抑えておかないといけないのは、eWTP(世界電子貿易プラットフォーム)である。

eWTP(世界電子貿易プラットフォーム)とは、簡単に言うと、電子商取引の国際ルールをつくって、国際貿易の恩恵を受けていいない中小企業が、そのメリットを享受できるようにしましょ、ということだ。

多分に政治的な感じがするが、このジャックマーというのはどうやら相当政治的なイシューは得意であるようで、中国共産党とも関係は良いと聞くし、
マレーシアやインドネシアでは政府顧問に就任している。

具体的な動きとしては、まずは特区をつくって、そこでは自由に貿易できるようにしましょ、という計画のようだ。(マレーシアではすでに進んでいる)

狙いであるが、これはアリババ経済圏を東南アジアまで広げようという試みとみてよいであろう。

ジャックマーはいちいち言うことがでかいのだが、このeWTPは、ジャックマーの発言「将来は一億人を雇用し20億人の消費者をまとめる世界5位の経済圏を目指す。米国、中国、欧州、日本、そしてアリババだ」
の発言と整合的である。

また、東南アジア最大のECであるLazadaも傘下に収めている。

本気で目指していいると見てよいであろう。NewRetailが5年10年単位の構想であるとすると、このeWTPは、10年20年単位の構想になるのではないかと感じる。

 

コングロマリットディスカウント

ここまでは、割と良いことばかりを書いてきた。
しかし、良い面ばかりではない。ここからはネガティブな点をかこう。

①強力なライバル→競争激化

アリババは、独占といってもよい領域はほどんどない。ほぼ全面的にテンセント・JD陣営と競合している。それが競争激化を生んでいることは否定できない。
先に紹介したNewRetailもテンセント陣営も盒馬鲜生コピー店舗を作っており、競争は激化している考えたほうが良い。
特に、ECの領域はJCやPinduoduo(拼多多)はWeChatとの相性もよく強敵だ。ある程度は削られることは計算に入れたほうが良いだろう。

コングロマリットディスカウント

百貨店やショッピングモールの株を買ったりと、EC企業、テクノロジー企業じゃなかったんかい?ってなツッコミは当然あって、その結果が減益、なめとんのかい?、といわれると立つ瀬が無い。
そうなると、当然コングラマリットディスカウントされても文句はいえない。このマイナス分は考慮したほうが良いだろう。
(私から言わせれば、そりゃプラットフォーマーとしてのコミットメントであって、やりたいのは小売じゃないんだよと叫びたいのは、ホルダーバイアスであって、ホルダーじゃないひとからみれば、GEとなにが違うのじゃという感じだろう。)

 

中国企業

共産党との関係がよいといったって、共産党に都合が悪ければ、速攻、アリババを潰しにくることは容易に想像できる。中国経済を犠牲にしてでも、共産党の党利優先するのは当然だ。そういった点は、常にリスクはある。


こういった様々なネガティブな面を考慮に入れても、①NewRetail、eWPTなど魅力的すぎるジャックマーのビジョン、②これまで築きあげてきたデータとテクノロジーと顧客接点の堀、③Forward PER 23.03のヴァリエーション。
総合的に考えて、ポジティブだとの判断である。